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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)110号 判決

主文

一  原告らの被告東京都知事に対する訴え及び被告日本化学工業株式会社に対する金員支払請求に係る訴えをいずれも却下する。

二  原告らの被告日本化学工業株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社熊谷組に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

第一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

第二  被告知事に対する本件訴えの適法性について

一  原告らの被告知事に対する訴えは、被告日化工らが権原なく本件処理施設を埋設して本件土地を不法占有しているのに、被告知事が被告日化工らに対し、本件処理施設の収去を請求しないのは、本件土地の管理を怠るものであるとして、法二四二条の二第一項三号に基づき、その違法確認を求めるものである。

二  ところで、法二四二条の二第一項三号に基づく請求(以下「三号請求」という。)は、地方公共団体の執行機関又は職員に個別具体的な財務会計上の作為義務の懈怠がある場合に、裁判所の判決によりその懈怠の違法を確定し、これによって、執行機関又は職員に右作為義務の履行を促し、執行機関等を通じて財務会計上の違法状態の是正を図ることを目的とするものであるから、右作為義務が第三者に対する実体法上の権利の行使を内容とする場合には、地方公共団体に代位して当該怠る事実の相手方に対して行う同項四号に基づく請求(以下「四号請求」という。)と比較すると、財務会計上の違法状態の是正方法としては、より間接的なものということができる。

もとより、法二四二条の二第一項は、住民訴訟の形態として一号から四号までの請求を認めているのであるから、地方公共団体の実体法上の権利行使の確保を図る手段として、四号請求によるか三号請求によるかは、専ら訴えを提起する住民の意思に委ねられていることはいうまでもない。しかし、原告らは、本訴において、東京都に代位して、原告らが主張する怠る事実に係る相手方である被告日化工らに対し、本件処理施設の収去を請求する四号請求を提起しているのであるから、この場合には、原告らが、三号請求により、被告知事との間で、本件処理施設の収去を求めないことが違法である旨の確認判決を得たとしても、被告知事としては、もはや被告日化工らに対し重ねて本件処理施設の収去を求める訴えを提起することはできないのみならず、被告日化工らに対する四号請求訴訟において、原告らが勝訴すれば、その勝訴判決の効力は東京都に及ぶこととなり(相手方が履行に応じないときは、右確定判決を債務名義として強制執行を行うことが可能となる。)、これによって、被告知事が本件処理施設の収去請求権を行使しないという財務会計上の違法状態は抜本的かつ直接的に是正されることになるのである。そうだとすれば、このような場合にまで、四号請求に基づく実体法上の権利の代位行使と併合して、同一の権利の不行使についての三号請求を行う実益は見いだし難いといわざるを得ず、原告らの被告知事に対する本件訴えは、訴えの利益がなく不適法といわなければならない。

三  したがって、被告知事に対する原告らの本件訴えは、不適法なものとして却下を免れない(なお、仮にこのような訴えも適法であると解したとしても、本件においては、東京都に、被告日化工らに対する本件処理施設の収去を求める請求権がないことは、後記のとおりである。)。

第三  被告日化工に対する損害賠償請求に係る訴えについて

原告らの被告日化工に対する損害賠償請求は、同被告が、権原なく本件土地を使用して本件工事を実施し、本件処理施設を埋設したことにより、本件土地を不法に占有し、使用料相当額の損害を東京都に与えたので、東京都に代位してその賠償を求めるというものである。

しかしながら、住民訴訟は、監査請求を経て行われるものであるが、この監査請求の前置は、監査請求の対象とした行為又は怠る事実と住民訴訟において審理の対象となる行為又は怠る事実との間に同一性があることを要求するものであるところ、《証拠略》によると、原告らの本件監査請求は、被告日化工らの行う本件工事を放置することが「本件土地の管理」を怠る事実であるとして監査を請求したものであって、本件土地の使用料相当損害金という「債権の管理」を怠る事実については、監査を求める対象とされていないとみるのが相当であるから、被告日化工に対する本件訴えのうち、右損害金の支払を求める部分は、本件監査請求の対象との実質的な同一性を認めることができず、監査請求の前置を欠いているといわざるを得ない。

しかも、仮に、本件監査請求が、本件土地の使用料相当損害金についてもその対象に含んでおり、被告日化工に対する右損害金の支払請求が監査請求の前置に欠けるところがないと解することができたとしても、原告らの右損害金の支払請求は、平成八年四月一〇日提出の準備書面をもって訴えの追加的変更として申し立てられたことが記録上明らかであり、本件監査請求(平成六年二月一八日)に対する監査(平成六年三月二五日付け)がされてから既に二年以上を経過してから提起されたものであるから、法二四二条の二第二項所定の出訴期間を徒過していることが明らかである。

したがって、いずれにせよ被告日化工に対する損害賠償請求に係る訴えは不適法であり、却下を免れない。

第四  被告日化工らに対する収去請求に係る訴えについて

一  法二四二条の定める住民訴訟は、地方公共団体の財務の適正を図る見地から、その執行機関又は職員による一定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を対象とするものであるから、法二四二条一項所定の「財産の管理」というのも、公有財産の財産的価値に着目してその価値の維持・保全を図る財務的管理をいうものと解すべきである。

被告日化工らは、本件工事ないし本件土地の使用は、環境汚染対策という行政目的実現のために行われた行為であり、財務会計上の行為ではないから、住民訴訟の対象とはなり得ず、本件処理施設の収去請求は不適法である旨主張する。

しかし、原告らの被告日化工らに対する収去請求に係る訴えは、被告日化工らが何らの権原なく本件土地に本件処理施設を埋設しているとして、その収去を請求するものであって、本件工事あるいは本件土地を使用させる行為を対象としてその違法をいうものではないから、被告日化工らの右主張は必ずしも当を得たものということができない。もっとも、本件土地は行政財産(公園予定地)であり、行政財産をその公用又は公共目的にそって管理するいわゆる行政的管理それ自体は、財産の財産的価値に着目してその価値の維持・保全を図る行為ということはできず、住民訴訟の対象となり得ないというべきであるが、しかし、行政財産である土地であっても、それが第三者によって不法占拠され、その占拠の規模、程度、態様などに照らし、これを放置することにより当該土地の財産的価値に著しい影響を及ぼすといえるような場合には、右不法占拠を排除し、占有を回復するための措置を講じないことは、行政的管理を懈怠するだけでなく、同時に、財産的価値の維持・保全を図るという財務的管理をも怠るものというべきであって、その限りで住民訴訟の対象となり得ると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原告らが主張するように、本件処理施設の埋設が権原なくされたもので、本件土地の不法占拠であるとすれば、後記認定の本件処理施設の規模、形状などに照らし、これを排除せずに放置することは、本件土地の財産的価値の維持・保全という財務的管理を怠るという面をもつものであることは否定できないというべきであるから、被告知事が被告日化工らに対しその収去を求めないことは、法二四二条一項所定の「財産の管理を怠る事実」に該当するというべきであり、住民訴訟の対象としての適格性を有するものということができる。

したがって、本件処理施設の収去請求が住民訴訟の対象とならず不適法であるとする被告日化工らの前記主張は失当である。

二  また、被告日化工らは、東京都には被告日化工らに対する本件処理施設の収去請求権がないから、被告知事に「財産の管理を怠る事実」はなく、原告らの訴えは不適法であるとも主張するが、東京都が本件処理施設の収去を請求できるかどうかは、本案において判断されるべき問題であって、被告日化工らの右主張は理由がない。

三  監査請求の前置について

1  本件監査請求がされ、却下されたことは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、原告らが本件監査請求をしていること(この点は、原告らと被告熊谷組との間においては争いがない。)、東京都監査委員が本件監査請求を却下したのは、本件工事が財務会計上の行為としての「財産の管理」に当たらないことを理由とするものであったことが認められる。

しかし、《証拠略》によれば、原告らは、本件監査請求の理由として、被告知事は財産管理のため本件工事を行うことを防止する義務があるのに、これを怠っている旨主張しており、その趣旨は必ずしも明確ではないものの、善解すれば、権原なく行われている本件工事を放置していることが「財産の管理を怠る事実」であるとして監査を求めているものと解することもできないではないから、これを不適法として却下した監査結果は相当でないというべきである。

2  ところで、原告らの本件処理施設の収去請求は、平成七年六月一二日提出の準備書面をもって訴えの追加的変更として申し立てられたものであり、その時点では、本件監査請求に対する監査(平成六年三月二五日付け)がされてから一年以上を経過していることになるが、しかし、原告らは、出訴期間内である平成六年四月二一日に、被告日化工らに対し本件工事の差止めを求める四号請求を提起し、その後本件工事が完了したことから(本件工事が平成七年五月三〇日完了したことは後記認定のとおりである。)、これに伴って本件処理施設の収去請求を追加したものであることが記録上明らかであり、当初の差止請求と右収去請求との訴訟物は実質的には同一ということができるから、右収去請求は、当初の訴え提起時に提起されたものと同視することができ、出訴期間の遵守において欠けるところはないというべきである。

四  そうすると、被告日化工らに対する収去請求に係る訴えは適法なものということができる。

第五  本案についての判断(被告日化工らに対する収去請求の当否)

一  請求原因2の(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件工事の経緯についてみるに、右争いのない事実に、《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

1  東京都と被告日化工は、かつて被告日化工の工場から排出され、本件区域に埋め立てられている六価クロム鉱さいの処理が環境保全のみならず本件区域における防災拠点建設事業の推進に不可欠の課題であるとの認識の下に、その解決のため、昭和五四年三月八日、(1) 被告日化工において、東京都の指導の下に、埋め立てられている鉱さいを掘削除去し、被告日化工所有の小松川南北工場跡地内に搬入して一括集中処理の上封じ込めること、(2) 定めのない事項については、必要に応じて別途協議することなどを内容とする本件協定を締結し、右協定に従って、六価クロム鉱さいの処理が行われてきた。

2  ところが、本件協定で予定した前記工場跡地での一括集中処理だけでは、全ての鉱さいを処理することができず、江東区内に大量の未処理のまま六価クロム鉱さいが残されていたため、東京都では、平成五年九月ころ、環境保全に関する事務を分掌する環境保全局が中心となって、環境保全の見地から、建設局や被告日化工などと協議を重ねた結果、公園予定地(行政財産)である江東区大島九丁目七三一番一ほかの本件土地を含む都有地を右鉱さいの処理地(以下「本件処理地」という。)として使用することとし、その処理作業は、被告日化工が鉱さいの処理を実施する旨を定めた本件協定の履行の一環として、被告日化工において費用を負担しこれを実施することとなった。

3  そこで、環境保全局長は、市街地土壌汚染対策検討委員会において本件処理地での六価クロム鉱さいの処理工法が確定されたことを踏まえ、平成五年一一月九日、被告日化工に対し、「亀戸・大島再開発地区における鉱さいの処理について」と題する書面をもって、本件処理地の面積、処理容量のほか、右処理工法、二次公害防止対策を具体的に示した上、鉱さいの処理を指示した。右処理工法は、本件処理地の地下にコンクリート壁の処理槽を設置し、これに汚染地で掘削した六価クロム鉱さいを封じ込めるというものであって、本件処理地全体での処理容量は約四万立方メートルが予定され、まず、第一期工事(本件工事)として、本件土地に二槽の処理槽を埋設し、約二万立方メートルの鉱さいを処理することとされた。被告日化工は、右書面による指示を受けて、本件処理地での第一期工事(本件工事)の施工計画を作成し、同年一二月三日、環境保全局長にこれを提出した。

4  ところで、東京都公有財産規則によれば、行政財産の管理の分掌として、局の事務・事業の用に供する財産の管理は、当該局の長が行うものとされており(四条一項)、本件処理地は、市街地再開発事業用地(公園予定地)として建設局長の管理する土地であったことから、環境保全局長は、平成五年一二月三日付けで、建設局長から、本件土地及びその付近の土地約七五〇〇平方メートルにつき、使用目的を「六価クロム鉱さい処理地及び工事の作業場」、期間を「平成五年一二月六日から平成六年三月三一日まで」として、その使用の承認を受け、その後、承認期間の満了に伴って平成六年三月と平成七年三月の二度にわたり、同様に使用の承認を受けた。

5  被告日化工は、被告熊谷組に対して本件工事の施工を発注し、本件工事は、環境保全局の監理・指導の下に、平成五年一二月一六日着工され、平成七年五月三〇日に完了し、環境保全局は同日その完了を確認した。完成した本件処理施設は、本件土地の地下に埋設された縦三九・四メートル、横二二・八メートル、高さ一一・〇メートルの処理槽二基であり、各処理槽は、外周、底面をそれぞれ鉄筋コンクリート壁で遮断され(外周の厚さ〇・八メートル、底面の厚さ一メートル)、六価クロム鉱さいを投入し転圧して締め固めた後、上面に防水シート等を敷き、さらにアスファルト混合物(厚さ〇・一メートル)で覆って遮水し、その上に一メートル以上の覆土がされている。

6  なお、東京都も被告日化工も、地中に埋設された本件処理施設は、本件土地と一体のものとして、東京都において管理すべきものとなるとの見解に立っており、本件土地の地下に本件処理施設が存在することにつき、被告日化工に対し本件土地の使用許可などの手続きはとられていない。

三  原告らは、被告日化工らは何らの権原なく本件土地に本件処理施設を埋設し、本件土地を不法占有している旨主張する。

1  しかし、前記認定したところから明らかなように、本件工事は、東京都(環境保全局及び建設局)と被告日化工とが協議した上、被告日化工が、本件土地(処理地)に六価クロム鉱さいを処理するための本件処理施設を埋設すべく、環境保全局の監理・指導の下に実施したものであり、環境保全局長は、被告日化工に対し、本件土地での処理工法を指示し、被告日化工から工事の施工計画の提出を受けていたのであるし、また、建設局長も、被告日化工を交えた前記協議を踏まえた上で、環境保全局長宛てに本件土地の使用承認手続をとったものであるから、環境保全局長及び建設局長はいずれも、被告日化工が本件工事を施工するため本件土地を使用することを当然認識し、承認していたものであることは明らかである。しかも、本件工事に至る経緯からすれば、東京都は、六価クロム鉱さいの処理が本件協定で予定した処理地(被告日化工の工場跡地)だけでは賄えなかったことから、環境保全局が中心となって、被告日化工と協議を行った上、江東区内における六価クロム鉱さいの処理を促進するという環境保全の見地から、東京都が本件土地をその処理地(本件処理施設の埋設地)として提供し、本件工事の施工それ自体は、被告日化工が行うことで話がまとまったものであって、本件工事は、もともと本件協定で取り決めた鉱さい処理の実施の一環として、東京都と被告日化工相互の了解の下に行われたものということができる。

そうだとすれば、被告日化工が本件土地を使用して本件処理施設を埋設することは、右了解された内容そのものであり、東京都においてこれを容認していたことは明らかであるというべきである。

2  もっとも、右のように本件工事が本件協定に基づく鉱さい処理の一環として東京都と被告日化工相互の了解の下に行われる場合であっても、被告日化工が独自の立場で本件工事(本件処理施設の埋設)に伴い本件土地を使用する以上、本件土地を使用するについて、法二三八条の四第四項に基づく使用許可を取得する必要があると解する余地がないではない。

この点について、被告日化工らは、環境保全局長が被告日化工に対し、平成五年一一月九日本件工事を指示するとともに、本件工事期間中の本件土地の使用を許可したと主張するが、前記認定のとおり、本件土地は、建設局長の管理する土地であり、環境保全局長は、建設局長から本件土地の使用承認を受けたことはあるが、これを被告日化工に対して使用許可し得る権限はないというべきであるから、環境保全局長が被告日化工に対し行政財産たる本件土地の使用許可をしたということはできない。しかし、本件においては、既に検討したように、建設局長は、環境保全局長宛てに本件土地の使用承認を行うにあたり、被告日化工が本件工事を施工するため本件土地を使用することを当然認識し、承認していたことが明らかであり、このように本件土地の管理を分掌(補助執行)する建設局長が、実質的に本件土地の使用を承認しているとみることができる以上、たとえ正式な使用許可(建設局長は被告知事の補助執行者であるから、第三者に対する行政財産の使用許可は、被告知事の名義で行うことになるが、実質的には、補助執行者である建設局長が許可の当否を判断することになる。)がされていないという不備があったとしても、そのことをとらえて、本件において被告日化工の本件土地の使用が権原のない不法なものであったと評価することはできないというべきである。

3  右のとおり、被告日化工が本件工事により本件処理施設を埋設するについては、いずれにせよ東京都の実質的な承諾があったとみることができるのであって、被告日化工による本件処理施設の埋設行為をとらえて、本件土地を権原なく不法に占有するものということはできない。

のみならず、前記認定した事実によれば、そもそも本件処理施設は、その完成により、本件土地の地中に埋設され本件土地に附着したものであり、その構造、規模などからすると、これを本件土地から分離することは物理的にかなりの困難を伴うことが予想されるだけでなく、それ自体に本件土地と離れて取引の対象となり得る社会経済的な価値があるともいえないし、しかも、東京都も被告日化工も、本件処理施設の完成後は本件土地と一体のものとなると考えていることをも勘案すれば、本件処理施設は、その完成により、本件土地に附合して、本件土地の一部となったものであり、民法二四二条により、本件土地の所有者である東京都の所有に帰したものと解するのが相当であるから、この点において既に、被告日化工が本件処理施設の埋設により本件土地を不法占有しているということはできないというべきである。

原告らは、附合は、分離することが社会経済的に不利益となる場合に認められるべきであるところ、本件処理施設を本件土地から分離することは社会経済的に利益となるのであるから、本件処理施設が本件土地に附合することはない旨主張する。

確かに、附合の制度目的は、結合した物を分離することによる社会経済上の損失の防止にあるといえるが、本件処理施設も、既に本件土地に附着し、分離することがかなり困難な状況にあるところ、これを分離して独立の使用収益をなし得る余地もないことなどを考えると、もはやこれを分離することは、社会経済的にみても合理性を欠くものというべきであって、既に本件土地と一体となり、独立の物としての実体ないし取引の対象性を失っている以上、本件処理施設は本件土地に附合したものというべく、原告らの右主張は採用することができない。

4  以上のとおり、被告日化工が、本件処理施設を埋設して本件土地を不法占有しているとの原告らの主張は理由がない。

また、原告らは、被告熊谷組に対しても、本件土地の所有権に基づき本件処理施設の収去を求めているが、被告日化工が本件工事により本件処理施設を埋設したのは、東京都の承諾の下に行われたものであることは前示のとおりであるから、被告日化工から注文を受けてその施工にあたった被告熊谷組が、本件工事に伴い本件土地を使用したことも何ら不法占有となるものでないことはいうまでもなく、また、本件処理施設が東京都の所有に帰したことは前示のとおりであるし、そもそも原告らの主張によっても、本件処理施設は被告日化工の所有する物であるというのであるから、被告熊谷組が本件処理施設によって本件土地を占有するということはあり得ず、原告らの被告熊谷組に対する請求は失当である。

第六  結論

よって、本件訴えのうち、被告知事に対する訴え及び被告日化工に対する損害賠償請求に係る訴えは、いずれも不適法であるから却下し、被告日化工らに対する本件処理施設の収去請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 岸日出夫 裁判官 徳岡 治)

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